追悼 利根川 進 先生 ~「精神と物質」/立花 隆氏著 ~分子生物学は どこまで生命の謎を解けるか~
■「精神と物質」/立花 隆氏著
~分子生物学は どこまで生命の謎を解けるか~
・利根川進氏
1962年ノーベル賞選考委員の一人が100年に1度の大研究と表した「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」でノーベル生理学医学賞を受賞
■僕はそれを聞いた時、アホやないかと思ったんです。
「抗体の多様性は、アミノ酸の配列そのものの違いに起因している。
なのでアミノ酸配列をどんどん読み解いていった。
しかし僕はそれを聞いた時、アホやないかと思ったんです。」
免疫学の分野を、従来のタンパク質の分析ではなく、DNAという遺伝子による生物学の分野から、利根川氏は、とらえていったんですね。
この点が、これまでの研究と大きく違っていたことにより、ノーベル賞受賞につながります。
■結局、運とセンス
「科学史には成功した研究しか残らないから、科学は発見に次ぐ発見、成功に次ぐ成功だったみたいに見えるけど、
はじめにこうなってるんじゃないかと考えた時に間違った方向で考えていたら後はどんな実験をやっても無意味ですよ。
いくらやっても、ある意味データが出てこない。
だけど初めに間違った方向に頭が凝り固まっていると、それでもこれは仮説の立て方が誤っていたんだということに気づかないで、
実験の方法が悪かったんだと思い込んで方法だけ変えて別の実験をしたりする。」
「怖いことだけど、これはよくあることなんです。
中には一生間違った方向に向かって、それっきりという人もいるんです。
頭が良ければ分かるというもんじゃない。
結局、運とセンスなんだろうね。」
■ネイチャーはロジカルではない。理詰めだけでは解決できない。
「結局科学というのは自然の探求のわけね。
ところがネイチャーというのはロジカルじゃないんだし、特に、生命現象はロジカルじゃない。
ロジカルにできていれば、理詰めで考えていけば分かるはずだけどそうじゃない。
ネイチャーが今ここにこうあるのは、たまたまそうなってるというだけの話なの。
生物の世界というのは何億年にもわたる偶然の積み重ね試行錯誤の積み重ねで、今こうなっているということであってこうなった必然性なんて無いわけですよ。」
■基礎トレーニングの差
「どうしてまた同じような実験をして正反対の結論が出たりするんでしょうか?
彼らも一流のサイエンティストの訳でしょ。」
「結局僕の推測では、なぜそんなことが起きたかと言うと、
科学者としての基礎的トレーニングの差だと思うんだね。
僕は出身が化学ですから化学・物理の基礎的トレーニングを受けている。
その中で実験においては定量・定性というものをすごくものすごく厳密にあるように叩き込まれているわけです。
ところが免疫系生物系の出身の人は、そこのところがそんなに厳密に訓練されていないのね。
だから実験の厳密さが欠けていたところが 、RNA の生成というのはちょっと厳密さを欠くといくらでもピュアなものが入り込んでしまうという微妙なものなんです。」
■サイエンスでは自分自身が確信するということが一番大切なんです。
「サイエンスに限らず、人間というのは何でも自分に都合がいいように解釈してしまう。
結局サイエンスにおいては正しい仮説に従って仕事をするのがどんなに大切かということです。
間違った仮説に従ってやってると正しいデータも間違った方向に解釈してしまう。
実験結果を解釈によって自分の信じる仮説に合うように捻じ曲げてしまったら、あとはどんどん間違った方向に行くだけですね。」
■重要なのは実験上のアイデア
「サイエンスというのは、ここが分からない、ここが不思議だというところを、
まず問題として正式化するところから始まるんですね。
まず疑問を持ちその疑問の内容を詰めていって、何がどう問題なのか問題点をはっきりクエスチョンの形に形式化する。
これが第一歩ですよね。
その問題に具体的に答えを出すためには、どういう実験をすればよいかというアイデアが出るかどうかなんです。」
■運命の分かれ道
「サイエンスというのはカバーしている領域が広くて深いから、細かいことをほじくり出したら研究対象なんていくらでもあるわけです。
だけどその大半はそう言ったら言い過ぎかもしれないけれど、どうでもいいことなんですね。
だけど大半の学者は、何が本質的に重要で何が重要でないかの見分けがつかないから、どうでもいいことを追いかけて一生終わっているわけです。
サイエンティストの大半はその他のどうでもいいことを研究している人達ですよ。
彼らはサイエンティストを自称して、サイエンスを飯の種にしてはいるけれど、サイエンスの側から見たら、いてもいなくても関係ない人たちなんですよ。」
「厳しいですね。だけど何が本質的に重要で何がどうでもいいことなんですか?
何を持ってそこを見分けるんですか?」
「それはやっぱりサイエンスの発展にどれだけ本質的に資するかということでしょうね。
サイエンスのプログレスに与えるインパクトの大きさで決まるんだろうね。」
「どういうものが科学の発展に本質的に資すると言えるんですか?それを測る基準は何ですか?」
「科学というのは、より一般性のあるより普遍性のある原理や法則を見つけていくことが科学の発展というものでしょう。
その目的により大きく近づくことができる研究ほど重要な研究ですよ。」
■本当に重要なものを重要と判断できるジャッジメント能力
「一人の科学者の一生の研究時間なんて極々限られている。
研究テーマなんてごまんとある。
ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでたら本当に大切なことをやる暇がないうちに一生が終わってしまうんですよ。
だから自分はこれが本当に重要なことだと思う、これなら一生続けても悔いはないと思うことが見つかるまで研究を始めるなと言っているんです。
科学者にとって一番大切なことは、何をやるかです。
何をやるかというアイデアです。
そして何をやるかを決めるのは何を重要と思うかです。
若い時に本当に大切なのは、この本当に重要なもの重要と判断できるジャッジメント能力を身につけることなんですね。
若い時にそれを身につけなかった人が多いから、どうでもいいことやっているのに自分では何か重要なことをやってるつもりで一生終わるサイエンティストが多いわけです。」
ここからは私個人の意見ですが、
「科学者」というところを、「人」、あるいは、「ビジネスマン」「経営者」として読み替えると、他人事ではなく自分事として非常に貴重なご意見です。
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